フォルクスワーゲンの Golf7 や Passat B8 系のオーナーから、「段差を越えるときにグニュッ」「ハンドルを切るときにゴキッと音がする」という相談を受けることがあります。
これらの異音は、足回りのガタつきやショックアブソーバーの劣化によるものと誤解されやすいですが、実際にはロアアームのリアブッシュ構造に起因するケースが多く確認されています。
このブッシュは、サスペンションの動きを支える重要部品であり、設計上のゴム干渉によって微小な摩擦音を発生させることがあります。本記事では、この異音が発生するメカニズムとその対処方法を解説します。
また、ブッシュ交換による根本解決だけでなく、 グリス注入による一時的な抑制方法(応急処置) についても紹介します。構造を理解した上で、的確な整備判断を行うための技術的参考資料としてご活用ください。
参考:ナイルメカチャンネル「段差を登ると「グニュ」「ゴキッ」と音がする異音対策」
足回り異音の発生状況と特徴
段差を越えると「グニュ」「ゴキッ」?
車を動かしていて、段差を越えたときや駐車場でハンドルを切ったときに、「グニュ」「ゴキッ」という鈍い音が聞こえることがあります。特に低速での走行時や、車体がねじれるような場面で発生しやすく、「何か壊れたのでは?」と不安になる方も多いでしょう。
このような音は、エンジンやサスペンションの金属部分ではなく、足回りのゴム部品(ブッシュ)から発生しているケースが多いです。金属同士の「カチカチ」という音ではなく、少し湿ったような「グニュッ」「ギュッ」とした音が特徴です。
音がする場所の目安
もし音が車体の前方下側から聞こえるようなら、疑うべきはロアアーム(下側のサスペンションアーム)付近です。ロアアームはタイヤと車体をつなぐ重要な部品で、路面からの衝撃を吸収し、ハンドル操作時の安定性を保つ役割を持っています。
このアームの両端には「ブッシュ」と呼ばれるゴム製のクッションが取り付けられており、車の動きに合わせてしなやかに変形します。しかし、ゴム製であるため経年劣化や温度変化により柔軟性を失い、摩擦音を出すようになります。
音が出やすい走行シーン
このような場面で音がする場合は、ブッシュの動きがスムーズにいっていないサインです。
異音は車の挙動に直接影響を与えるほどではないことが多いですが、放置するとアームの歪みや他部品への負担につながる可能性があります。異音の正体を知ることが、安心して車に乗り続ける第一歩になります。
原因部位:ロアアームリアブッシュの構造
ロアアームはどんな部品?
ロアアームは、車の足回りでタイヤと車体をつなぐ重要な部品です。サスペンションの一部として、路面からの衝撃を受け止めながら、ハンドル操作に応じてタイヤの角度を支える役割を果たしています。
このロアアームは、「フロントブッシュ」「リアブッシュ」「ボールジョイント」という3つの支点で構成されています。それぞれが金属とゴムを組み合わせた構造で、車体の揺れを吸収したり、滑らかな動きを確保しています。
異音の多くはリアブッシュから

VW Golf7やPassat B8といった欧州車でよく聞かれる「グニュッ」「ゴキッ」という音は、主にロアアームのリア側ブッシュから発生していることが多いです。リアブッシュは、アーム後方に取り付けられており、上下やねじれの動きに対応するよう設計されています。
しかしこの構造が、音の原因にもなります。内部のゴム部分が走行中にねじれながら動くため、経年劣化や温度変化によってゴムと金属の間で摩擦音が生じるのです。
ゴムのねじれ構造と摩擦音

リアブッシュは、中央に金属スリーブ(芯)を持ち、その外側をゴムが覆っています。車が段差を通過したり、ハンドルを切ると、アームがわずかに回転してゴム部分がねじれます。
新しいうちは弾力があるため静かですが、時間が経つとゴムが硬化し、潤滑性が落ちて「ギュッ」「グリッ」といった音が発生するようになります。
これは破損ではなく、経年による摩擦音である場合がほとんどです。
設計特性による違い
特に初期型のGolf7などで使われていた貫通構造タイプのブッシュは、ゴムが内部で自由に動く構造のため、摩擦が生じやすく音が出やすい傾向がありました。
これに対し、後期型や対策品のブッシュではゴム一体成型構造に変更され、内部の動きを制限することで音の発生を抑える工夫がされています。
つまり、「構造の違い」そのものが、異音の出やすさを左右しているのです。
応急的な異音軽減策:グリス注入
一時的な処置としてのグリスアップ
ブッシュ交換がすぐにできない場合や、費用を抑えたいときに有効なのがグリス注入による応急処置です。これは、ブッシュ内部の摩擦を一時的に減らし、音を和らげる方法です。
根本的な修理ではありませんが、数週間から数か月程度は異音を軽減できます。
作業は比較的シンプルで、アームを外さずに実施できる場合もあり、整備工場で短時間で対応してもらえることが多いです。
使用するグリスの種類
使用するグリスは、モリブデン系グリスやギアグリスなど、耐圧性と耐水性に優れたタイプが適しています。これらは金属摩擦だけでなく、ゴム同士の滑りを改善する特性があります。
スプレー式シリコングリスも手軽ですが、持続力が弱く、効果が短期間で薄れることが多いです。しっかり効果を出すには、粘度の高いグリスを少量ずつ注入するのがポイントです。
塗布・注入の方法
ブッシュの外周と金属ケースの間に、注射器や細ノズル付きの容器でグリスを少量注入します。ゴムの動く方向を考えながら、複数箇所に分けて塗ると全体に行き渡りやすくなります。
注入後は車を上下に軽く揺らしたり、段差をゆっくり通過することで、グリスが内部に馴染みます。この段階で「グニュ」という音が一時的に静まれば、摩擦低減の効果が出ている証拠です。
注意点と限界
グリスアップはあくまで「応急処置」であり、完全に音を消すことはできません。また、長期間放置すると、ゴムがグリスを吸って柔軟性を失い、逆に劣化を早める恐れもあります。
さらに、グリスが外に漏れてブレーキ部品に付着すると、制動力低下の原因にもなります。作業後は必ず余分を拭き取りましょう。
最終的には交換を
グリス注入は、一時的に音を軽減し、走行テストで原因を特定するのに有効な方法です。しかし、根本的な解決にはブッシュそのものの交換が必要です。
「とりあえず音を止めたい」「修理までのつなぎとして使いたい」という場合には有効ですが、最終的には新品ブッシュへの交換を前提に考えておくことが大切です。
だから選択肢は3つ
こんなとき、VWオーナーにできる現実的な選択肢は次の3つです。
① まずは診断・見積もり
輸入車に強い整備士が原因を特定し、必要最小限で提案。
② 高額修理の前に査定
整備履歴・社外パーツまでプラス査定の外車専門。
③ 修理費リスク回避の“定額で新車”
車検・税金・メンテ込の月額で故障ストレスから解放。
ワンポイント
「走れるから大丈夫」と思っても、実際はいつ爆発するか分からない爆弾を抱えている状態です。
早めに動くほど、費用もダメージも抑えられます。
異音発生のメカニズム
音の正体はゴムの摩擦音
段差を越えたときに「グニュッ」と聞こえるあの音。実は、金属がぶつかる音ではなく、ゴム同士がこすれ合う音です。
ロアアームが上下に動く際、ブッシュ内部のゴムがねじれて伸び縮みします。このときに内部で摩擦が起こり、湿ったような鈍い音を発生させます。
とくに冬場など気温が低いときや、長期間走行してゴムが硬化した状態では、この摩擦が強くなり、音がよりはっきりと聞こえるようになります。
段差通過時に発生するメカニズム
段差を通過すると、サスペンション全体が一瞬沈み込み、ロアアームが上下に動きます。その際、リアブッシュのゴム部分がねじれて元に戻るという動作を繰り返します。
新しいブッシュであれば、この動きがスムーズにいくため音は出ませんが、経年変化でゴム表面が乾燥し、潤滑が失われると、ねじれるたびに「グニュ」「ギュッ」という摩擦音が発生します。
この摩擦は、内部の金属スリーブとゴムの間、またはゴム同士の層間で起きているのが特徴です。
ハンドル操作でも音が出る理由
ハンドルを切ると、サスペンションは上下だけでなく斜め方向にもひねられる動きをします。このとき、ロアアームのリアブッシュは縦方向と横方向の両方の力を受けるため、摩擦が増大しやすくなります。
特に駐車場での切り返しや、段差を乗り越えながらハンドルを操作すると、「ゴキッ」「グニュッ」といった独特の音が出るケースが多く見られます。
初期型と対策品の違い
Golf7やPassatの初期型では、ブッシュ内部が「貫通構造」になっており、ゴムの動きが大きいため音が出やすい傾向がありました。
後に販売された対策ブッシュでは、内部がゴム一体構造に変更され、ねじれを分散させて摩擦を抑える設計になっています。これにより、音の発生頻度が大幅に減少しました。
つまり、この異音は構造的な特徴によるものであり、完全な故障ではありません。ゴムがしなやかさを失った結果、摩擦音として“声を上げている”状態なのです。
👉段差でコトコト・直進でフラつく…原因はロアアームブッシュ?交換費用と効果
根本的な解決方法:対策ブッシュへの交換



対策ブッシュとは
ロアアームの異音を根本的に解決するには、対策品ブッシュへの交換が最も確実です。対策ブッシュとは、メーカーが異音や耐久性の問題を改善するために設計変更を加えた改良版パーツのこと。
Golf7やPassat B8では、初期型で多発した「グニュッ」という摩擦音を抑えるため、ゴムの構造と硬度が変更された対策ブッシュが純正部品として販売されています。これにより、ゴム同士のねじれ摩擦が減少し、異音の発生が大幅に軽減されます。
構造上の改善ポイント
対策ブッシュでは、従来の「貫通型ゴム構造」から「ゴム一体成型構造」へ変更されました。これにより、アームの動きがよりスムーズになり、摩擦が発生する範囲を制御できるようになっています。さらに、ゴムの硬さ(ショア硬度)が最適化され、柔軟性と耐久性のバランスが向上しています。
これらの改良により、日常走行中の段差やハンドル操作時に感じる「グニュ音」がほぼ解消されます。
交換には専用工具が必要

ただし、ブッシュの交換作業は簡単ではありません。ブッシュはロアアーム本体に圧入(プレス)されている構造のため、専用のプレス機が必要になります。
DIYでは難しく、基本的には整備工場またはディーラーでの作業が推奨されます。
交換時は、アーム全体を取り外してプレスで古いブッシュを抜き取り、新しいものを圧入します。
この際、挿入方向と角度のズレに注意しなければなりません。正確に取り付けないと、異音が再発することもあります。
併せて点検すべき箇所
ロアアームのリアブッシュが劣化している場合、同時にフロント側ブッシュやボールジョイントも摩耗していることが多いです。
これらをまとめて点検・交換することで、足回り全体の安定性が向上します。
特に10万km以上走行した車では、ブッシュ交換後にステアリング操作が軽くなり、乗り心地も改善するケースが多く報告されています。
長期的な効果
対策ブッシュに交換すると、異音が解消するだけでなく、サスペンションの動きがしなやかになり、タイヤの接地感や直進安定性も向上します。定期的に足回りをリフレッシュすることは、快適で安心な走行を保つうえでとても大切です。
👉VW専門店ナイルプラスのメンテナンス・カスタムの費用&作業日数まとめ
関連する足回り要素と補足対策
ペンデュラムサポートの影響
ロアアームブッシュと同様に、ペンデュラムサポート(エンジンマウントの一部)の劣化も足回りの異音に関係することがあります。ペンデュラムサポートはエンジンやミッションの振動を支える部品で、ここが劣化するとエンジンの動きが過剰になり、発進や停止のたびに「ドン」や「グニュ」といった衝撃音が発生します。
特に、ロアアームブッシュとペンデュラムサポートが同時に劣化していると、走行中の振動やシフトショックが大きくなる傾向があります。ロアアームの点検時に、併せて確認すると効果的です。
社外品による補強プレートの活用
足回りの剛性を高めるために、補強プレート(アンダーブレース)を追加装着する方法もあります。これによりロアアームの動きを抑え、サスペンション全体のたわみを減らすことができます。
ただし、剛性が上がる分、乗り心地がやや硬くなる傾向があります。静粛性よりも操縦安定性を重視する人には向いていますが、快適性を重視する場合は純正仕様を維持するほうがバランスが取れます。
アッパーマウントやベアリングも要チェック
足回りの異音は、ロアアームブッシュ以外の部品が原因であることもあります。特に、アッパーマウント(ショック上部のゴム)やストラットベアリングが劣化すると、段差通過時に「コトコト」「ギュッ」といった音が発生することがあります。
これらの部品もゴム素材を使用しているため、年数が経つと硬化やひび割れが起きやすいです。ロアアームブッシュ交換時に同時に点検・交換しておくと、全体の静粛性と乗り心地の改善効果が大きくなります。
異音の複合的な要因を見抜く
足回りの異音は、1か所だけが原因とは限りません。ブッシュ、マウント、サポートなど、複数の部品が少しずつ劣化し、それが合わさって音を発していることも多いです。
整備工場で診断する際には、異音が出るタイミング・場所・音質をメモしておくと特定がスムーズになります。
異音を「一つのサイン」として捉え、車全体の健康状態を見直すきっかけにすることが大切です。
異音の正体を理解することが第一歩
異音は必ずしも故障ではない
足回りから「グニュ」「ゴキッ」といった音が聞こえると、不安になる方も多いですが、すぐに大きな故障というわけではありません。多くの場合は、ロアアームのリアブッシュ内で起きるゴム同士の摩擦音です。経年劣化や設計上の特性によって発生しやすく、車の走行性能に直ちに影響することは少ないものです。
しかし、放置しておくと劣化が進行し、他の足回り部品に負担をかけることもあります。異音が気になり始めたら、早めの点検を心がけましょう。
原因を知ることで安心できる
異音の正体を知っておくと、整備士とのやり取りもスムーズになります。「ロアアームのブッシュかもしれません」と伝えるだけで、点検箇所が絞られ、原因特定が早まります。
また、音の出る状況(段差・ハンドル操作・温度など)を記録しておくと、整備時に再現がしやすく、的確な判断につながります。異音は「車が教えてくれるサイン」と考えると、日常点検への意識も高まります。
応急処置と本修理の使い分け
グリス注入などの応急処置は、一時的に音を抑えるのに有効です。ただし、根本的な解決には対策ブッシュへの交換が必要です。整備工場での作業には専用工具が必要になるため、費用と時間を見積もったうえで、計画的に実施するのが理想です。
応急対応で静かになったとしても、定期的な点検を怠らないことが、長く快適に乗り続けるコツです。
定期点検の大切さ
ロアアームブッシュを含め、足回りのゴム部品は5〜10年で劣化が進むのが一般的です。1年または1万kmごとの点検を目安に、異音・ひび割れ・亀裂がないかをチェックしましょう。
また、アッパーマウントやペンデュラムサポートなど関連部位の同時点検もおすすめです。複数の部品を一度にリフレッシュすると、車全体の安定感が大きく向上します。
まとめとして
足回りの異音は、車の「疲れ」を知らせるサインです。構造を理解し、正しい対処を取ることで、不安を減らし、安心してドライブを楽しむことができます。応急処置で様子を見ながら、定期点検を通じて早めにリフレッシュを検討していきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 段差を越えると「グニュッ」と音がします。すぐに修理が必要ですか?
すぐに危険というわけではありません。この音は多くの場合、ロアアームのリアブッシュ内部でゴムがこすれる摩擦音です。車の安全性に直ちに影響することは少ないですが、放置すると他の足回り部品にも負担がかかります。異音が頻発する場合は、早めに点検を受けることをおすすめします。
Q2. グリス注入で本当に直りますか?
グリス注入は一時的な音の軽減策としては有効です。摩擦を抑えることで一時的に静かになりますが、効果は数週間から数か月程度しか持続しません。根本的な解決には対策ブッシュへの交換が必要です。修理までのつなぎとして使うとよいでしょう。
Q3. 対策ブッシュに交換すると音は完全になくなりますか?
多くのケースで異音はほぼ解消されます。対策ブッシュは内部構造が見直され、ゴムの硬度と形状が改良されています。ただし、他の部品(アッパーマウントやベアリングなど)が劣化していると、別の音が残ることがあります。足回り全体を点検するのが理想的です。
Q4. DIYでブッシュ交換はできますか?
ロアアームブッシュは圧入式(プレス固定)のため、専用工具が必要です。DIYでの交換は難易度が高く、正しい位置で圧入しないと再び異音が出る場合もあります。安全のため、整備工場やディーラーでの作業を推奨します。
Q5. ロアアームを交換すると費用はどのくらいかかりますか?
部品のみ交換であれば片側2〜3万円程度、工賃を含めると両側で5〜8万円程度が目安です。車種や作業内容によって異なりますが、対策ブッシュへの交換は長期的に見て費用対効果の高いメンテナンスです。
Q6. 走行中の「コトコト」「ゴトッ」という音も同じ原因ですか?
似た位置からの音でも、原因は異なる場合があります。金属的な「コトコト」音は、スタビリンクやアッパーマウント、ショックベアリングなど別部品が関係している可能性もあります。
どの音がいつ出るのか(段差・低速・ハンドル操作など)を記録しておくと、整備士が正確に診断しやすくなります。
Q7. 放置するとどうなりますか?
異音を放置すると、ブッシュがさらに劣化し、アームのガタつきや走行安定性の低下につながるおそれがあります。放置期間が長いほど修理範囲が広がるため、気づいた段階で点検を受けることが結果的にコストを抑える近道です。
異音の正体を理解し、早めに点検・整備を行うことで、安心して静かな走りを取り戻せます。


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